低俗な

「高尚なものが好きなの」
 彼女が言った。
「高尚なものって?」
 僕が尋ねる。
 すると彼女は振り返り、水が流れるような声でこう言った。
「意味のないものよ。意味がないから高尚なの」
 僕にはよくわからなかった。
「そうかな」
「そうよ」
「そういうものなのかな」
「そういうものなの」
 意味のないやり取り。
 だから僕は、意味のない物を書こうと思った。

モラいもん

 ネコ型ロボットを貰った。貰い物だからモラいもんと名付けた。
 モラいもんは自称22世紀のネコ型ロボットだ。もっとも僕は22世紀に行ったことがないから、本当のところは知らない。
 はじめは軽く考えていた。ネコ型ロボットといっても玩具みたいなものだろうと。
 ところがモラいもんは違った。
 三食きっちりご飯を食べるし、不平不満も言うし、間違ったことをすれば理路整然とそれを注意した。
 当然我が家の家計は圧迫され、食費が増えたことで母から小言を言われた。
 ある日モラいもんに聞いてみた。
「モラいもんはネコ型ロボットなのに、なんでご飯を食べるの?」
「僕はロボットだけど食事も出来る高性能ロボットなのさ」
「ご飯を食べないと、動けなくなるの? モラいもんの動力って何なのさ?」
「僕は食べたものを体内で原子レベルに分解してエネルギーを得ているのさ。僕のおなかには原子ろがあってね――」
「げ、原子炉だって!! 大変だ! メルトダウンだ!」
「あ、あのね原子炉じゃなくて原子『ろ』だよ。これは原子炉と違って全然安全で――」
「その体内に収まっていることを考えると深層防護も完璧ではないな! 放射能汚染だ! 歩く核兵器だ!」
「ちょっと、あのね――」


 翌日、モラいもんは政府の研究機関に引き取られていった。
 風の便りによると、体内から核融合炉以上の動力装置が発見されたらしい。
 22世紀を目前に迎えた今日、人類はいまだ核融合エネルギーすら実用化出来ていない。

偶像狂想

モー娘。ももう落ち目だよな」
バカ辻ちゃん最高だっつーの」
「結婚したじゃん」
「やっぱ今ならAKB48でしょ」
「三次元なんてもうダメだね。時代は二次元」
「CCサクラとかね」
「古くない?」
「え、じゃぁ綾波とか」
「古いって」
 クラスの連中が話してる。
 やれやれ、どうしてこうも男どもはアイドル好きなのか。
「あ、ねぇM君、M君は好きなアイドルとかいる?」
「別にいないけど」
 聞かれた手前、一応答えてやる。
 くだらない。実にくだらない。
 大体アイドルだの美少女キャラだの商業主義の下に作られた幻想に踊らされてどうするんだ。
「えー、一人ぐらいいるでしょ。好みの子とか」
 猫被ることが仕事のアイドルやタレントを見て、好みもクソもないだろうに。
「一人もいないってのも、それはそれで寂しいねぇ」
 少しムッくるが、相手にしても仕方ない。
「本当にいないの? 一人ぐらいいるっしょ。今までにハマった子とか」
「そうそう。教えてよ。M君はどういうのにハマるわけ?」
 あまりにしつこいので、教えてやることにする。
「星野スミレ」
「って、誰?」
「須羽満夫に片思いしてる人」
「須羽満夫って誰?」
 まったく、これだから近頃の若い奴らは。

AKB48

 ところでさ、ABK48なのかAKB48なのかわからなくなって検索したら、AKB48の公式ページが出てきてさ、で、48人もいたらどんなもんよと思ってメンバー情報ページ見てみたらさ、なんかどの子もフツー。
 いやね、48人もいたら可愛い子もそうじゃない子もいるだろうさ。引き立て役とかね。
 でもね、全員フツーなの。若干引き立て役っぽい子の方が多いんだけど、でも引き立てるべき対象の子がいないから、全員フツーなんだわ。
 なんかこういうの最近の流行なのかね。
 まぁ確かに、毎日行列の出来るラーメン屋行ってると、たまには近所のフツーのラーメン食うか、ってなるもんね。
 ってえ、なに? ファンはこれを行列作って見てるの?
 ごめん理解も共感もできない。

メタ

「結局さ、ネスティングでもメタでもいいんだけど、重要になってくるのは読者のリテラシーなわけよ。読者が誤読してくれてちゃ、どんなに苦心して書こうが無駄なわけ」
「苦労どころが思いつくまま書いてるくせに」
「おいおい、それを言うなよ」
「でもさ、確かにメタ的な物を理解しない人は多いよね」
「ああ、うんざりするね」
「そもそも、ダイアリーという形式を取っているのが間違いなんじゃない? 日記に限らず、書くという行為だけ見ても、そもそも事実を書くのが当たり前であり、事実でないことを書くのは亜流とも言えるし」
「おいおいいつの時代の話だよ。これだけフィクションが隆盛してる世の中でなぁ」
「でも、どんなフィクション作品でも、『これはフィクションです』って注釈つくじゃん」
「じゃぁこれも毎回『この日記はフィクションです』ってつけるか?」
「いやまてよ、フィクションじゃないこともあるから困ってるんだろ。どっちがどっちか読み取れない奴がいるってことでさ」
「ホント、リテラシー低い奴はイヤだね」
 
 皆でわいわい話していたとき、それまで黙っていた一人の男がポツリと口を開いた。

「盛り上がってるところ悪いんだけどさ、リテラシーってそもそも読解力はもちろん、読み書きの能力のことでしょう?
 読み取れない方も確かにリテラシー低いと言えるかもしれないけれど、『読み取れるように書かない』方も、リテラシー低いんじゃないの?」

 その一言で、男たちは皆沈黙した。