つまらないとわかっていても書く理由

やあ、こんばんは。
久しぶりに見に来たけど、ようやくアクセスが落ち着いて来たみたいだね。今、一日どのくらい? へぇ、それじゃ前と全く一緒だね。
ホットエントリの効力は1週間っていうのは、本当だったわけだ。
といっても、君の場合、そのアクセス数を維持させる意志があったかどうか疑わしいけど。いや、違うか。結局、途中で逃げたんだものね。
「アクセス数を維持し続ける」ってプレッシャーからさ。
先にこっちから逃げちゃえば、気持ちは楽だもんね。
アクセスして貰おうと努力して、して貰えなかったんじゃ悲しい。けど、先に自分からアクセスして貰うことを放棄してしまえば……ってね。
図星かい?
それにしても、君のこの前のアレ、酷いね。
何って、君自身でもわかってるだろ? あまりにつまらないから、慌てて最近食べた物の写真をアップしたりして流そうとした、アレだよ。
探偵がどうこうってヤツさ。シックスセンスばりのオチがつまらないのはいつものこととしても、途中で文章が完全に崩壊しているじゃないか。
どうしたんだい? 僕は君のことを、「つまらないことしか書かないけれど、書き始めたら一貫して文体は崩さない」という、何の役にも立たない駄文製造器だと思っていたんだけど、アレじゃまるで悪文製造器だね。
あんな物をネットに晒して、恥ずかしくないのかな? 恥ずかしいから、慌てて流そうとしたんだろう?
君自身も十分に理解しているはずだぜ? それなのに、なぜ消さずに投稿する?
確かに、あんな物でも面白いと――お世辞だとしてもね――言ってくれる人はいる。でも、問題はそこじゃないだろう?
問題は、君自身が面白いと思っているかどうか、だ。
君自身は、間違いなく、自分自身で、アレがつまらないと――それもいつものようにただつまらないだけじゃなく、途中からやる気すらも無くなっていると――気付いている。
なのに君は、書いた。あまつさえ、今もこうやって、「自分でつまらないと思うことを書いてしまった」ということの贖罪をしようとしている。自分自身に対してね。
君はただ、「更新期間が空いちゃったしそろそろ書かなきゃいけないな」って義務感だけで、書いてるんじゃないのか?
今、この瞬間もね。


「違う!!」
今すぐ叫びたかった。
だけど、僕はここでは無力だ。
全て彼の言うとおりなのかもしれない。僕は本当は書きたくなんてないのかもしれない。
ただ惰性で、義務感すらも漂わせながら、このつまらない日記を書き続けているだけなのかもしれない。
でも、本当にそうなのだろうか?
僕はただ、「更新期間が空いてしまったから」というだけで、書くことが無いのに無理矢理に書いていたのだろうか?
いつも「日記を書こう」とする時のことを、思い出す。
その時僕は、「最近更新していないからそろそろ書こう」と思って書き始めるのか?
……少しは、そういう気持ちもあるかもしれない。
けれど、きっと、いや、絶対にそれだけじゃない。
そう、僕は何よりも「書きたい」のだ。「書きたい」それが、僕が日記を書く理由じゃないか。
面白いかどうかなんて関係ない。そりゃ、出来れば面白い物を書けた方が良いけれど……。
でも、何よりもまず、「書きたい」んだ。つまらなくたって関係ない。「書きたくて仕方ない」から書くんだ。
だとしたら、なぜ僕は、こんなにも、「この前のエントリ」を恐れているんだろう?
なぜ、彼に何も言い返せないのだろう……。


「理由を教えてあげようか?」
彼が僕に問いかける。
「それは、アレが『君が書きたくて書いた』物じゃないからだよ」
そんな馬鹿な。書き始めた時の僕は、一気に最後まで書くつもりで、書きたくて書いていたはずだ。
「でも、事実、最後までは書き終えられなかった。書き始めはすらすら書けたのに、途中から書くのが憂鬱になった。そうだろう?
 君が日記を書くとき、君は基本的に推敲も何もせず、話の筋すらも決めず、好き勝手に書くだけだ。
 だけど、あの時君はそれが出来なかった。書いている途中で、詰まりに詰まって、書くのが嫌になってしまった。それが君がアレを嫌う理由さ」
そうかも知れない。
ここで書いている文章は、主に二通りだ。
ある程度書く内容は考えていたとしても、どの位の長さにするか、どういう書き方にするかも何も考えず、ただ手の動くままにタイピングし続け、途中から自動的にタイピングし続けているかのような感覚に陥るような、エントリ。
そして、他のテキストエディタなりで書いて、じっくり読み返し、推敲してからコピー&ペーストして投稿するエントリ。といってもこっちは数える程しか無い。
つまり、圧倒的に「タイピングという作業自体が楽しくて投稿している」かのようなエントリの方が多いのだ。
なのに、この前のエントリは、途中でタイピングが苦痛だった。なぜだろう?
題材の問題? 確かに、ちゃんと練ればもっと大きくなる話だったかも知れない。思いつきで書かず、数日かけて書いた方が良かったのかも……。
それとも、気分の問題? ここのところあまり暇な時間が無く、余裕が無かったせいかも知れない。それで気ばかり焦って、長文の途中で飽きたのかも……。


「違うね」

彼が僕の心を読んだかのように言う。

「僕が君に理由を教えてあげるよ。簡単なことさ。
 それは、君が本を読んでいないからだよ。本を、文章を、小説を読んでいないから、君は書けない。
 元々君の中には、書くに足ほどの物なんて存在しない。君は所詮その程度の存在さ。
 それでも君が、素人なりに、どうにかこうにか、こうして拙い文章を書いていられるのは、君が外に吐き出す以上に食べ続けていたからさ。
 書く以上に読まなくなった君に、書けることなんて残ってないんだよ」

ああ、そうか。
簡単なことだったんだ。
僕は、空っぽだったんだ。
食べた物を、形だけ変えて吐き出していただけ。
それを「書く」行為だと勘違いしていたなんて。なんて浅はかなんだろう。
出来上がった物は、中途半端に咀嚼された劣化品。だからつまらない物ばかりだったんだ。
とすると、僕は最低のシェフだ。
提供するのは、自分が食べた物を体内で消化して、それを吐き出して皿に盛っただけの、最低の料理。いや、料理とも言えない汚物だ。
そんな物を、出し続けていたなんて――。


理解したかい? 君がやって来たのは、「そういうこと」だったんだよ。
わかったなら、もうここには用はないだろう?
君には「何かを書きたい」なんて欲求はなかったんだ。あったのは、人真似のレシピですらない、人の料理を食べたのを吐き出したいという欲求だけ。
君自身が「何かを書く」なんてことは無理だったんだよ。借り物の言葉、借り物の意見、文字すら借り物だ。
僕は知ってるんだぜ。君の文字が、このネットで表示されるそれといかにかけ離れているかをね。
だから、理解したなら、もうお休み。


「でも、わからないことがあるんだ」
「わからないことって?」
「僕は……確かに君の言うような、そんな存在かも知れない。けど、今こうして書いてる僕は何なの? 僕はあれから何かを読んだりしてない。
 なのに、書けなかった僕が、今またこうして書きたくて堪らないんだ。
 これを書いてる今も、つまらないと自覚している。
 自意識丸出しで、意味不明で、途中で視点を変えているつもりなんだろうけど上手くいってなくて、語法も統一されてなくて、本当につまらない文章だと思う。
 けど……」
「けど?」
「けど、きっと、『書きたい』んだ。
 理由なんてない。猿真似しただけの言葉かも知れない。ステレオタイプの意見しか言えないかも知れない。
 でも、それでも『書きたい』。うん、書きたいんだよ。
 これだけは、多分本当なんだ」
「……ふーん。で、それが本当だったとして、どうするの?」
「これが本当なら、それはもう十分な理由なんだよ。つまらなくても、読む人がいなくても、馬鹿にされても、呆れられても、それでも十分過ぎるくらいに」
「なら、これからも書き続ける?」
「多分。書きたいって気持ちが、消えるまでは。
 いや、違うな。きっと書きたいって気持ちは、生まれたり消えたりする物なんだ。それで、書きたい時だけ、僕は書くよ。たとえどんなにつまらなくても、書かないよりはマシだからね。
 だって、何よりまず、書きたいんだから」
なるほど。つまり、書きたい時ならつまらない物を書いても苦痛じゃないってことだね。そして、書きたくない時に、つまらない物を書くほど苦痛なことはない」
「そうだね」
「じゃぁ、そろそろ今日の日記はお終いだね」
「うん。だんだん、勢いだけで書いていたのが、つまらなくなってきたからね。
 重要なのは、書いてる内容がつまらないかどうかじゃなかったんだ。書くという行為がつまらないかどうかだったんだよ」
「自分が楽しいから、楽しい間だけ書く、ってことだね。いやはやなんとも、自慰行為と呼ぶに相応しいよ」
「自覚してるさ、きっと」
「そうだね」
「それじゃぁ、今日はお終い。
 実はさ、一週間くらい実家で自転車レストアしたりすることになったんだよね。
 だからさ、その写真とかも撮ってみようかと思って。あと他にも色々あるし、ちょっと面白いアイテムも手に入れたしね」
「なんだ、書きたいことあるんじゃん」
「うん。でも何となく今日は、わけわかんない感じのことをダラダラ長文で書きたかったんだよね」