原作ファンの、映画『スカイ・クロラ』の感想

目的がすり替わった感があるけれど、一応。


言いたいことは色々あるけれど、まずは宮崎吾朗さんごめんなさい。
この前、トレーラームービーを観た時に懸念していたことが、ほぼ全て的中していた。
http://d.hatena.ne.jp/ma_zu/20080730
良かったのは、綾香の歌がエンディングのスタッフロールで流れただけで、劇中流れたりしなかったので鬱陶しくなかった点。


公式サイトの吾朗さんのコメントを読んで、「スカイ・クロラはそういうモンじゃねーだろ! やっぱこの人ダメだな」ってなことを言ってたのですが、吾朗さん、あなたは正しかったです。


「生きるために生きたい」


そんなコメントが的確に出てくるなんて、凄いです。ホントに、この映画を表してると思います。マジで


つまり、僕が宮崎吾朗のコメントを読んで「そんなんじゃねーだろw」と思ったところが、全部「そんなん」になってました。


つーか、これ、面白いか?
原作読んでなくて「面白かった」って言ってる人は、具体的にどこが面白かったのか教えて欲しい。*1


当たり前のようにネタバレで感想。

まず、気に入らなかった点を列挙。


全体通して

クサナギとカンナミの恋愛要素有。
「君は生きろ」なんて台詞が当たり前のように出てくる。
なんだこれ。


入れ物はスカイクロラだが、中に入っているのは押井の主義主張。*2
半ば原作スカイクロラに対するアンチテーゼ気味とすら言える。


あと、クサナギの声が嫌。
まぁそれは個人の主観だから置いておいて、以下個別に。

空戦シーンについて

飛行シーンがCGというのが気になった。機速も。


森が小説スカイクロラで飛行機をレシプロに設定したのは、ジェット機にないロマンみたいな物やドッグファイトの美しさといった物が好きだからだと思っていたのだが、映画スカイクロラはむしろゲーム『エースコンバット』のムービーシーンを観ているような感覚。


飛行機の速度が速い。
80度くらいの角度で上昇した後、突然水平に戻して高速で動いたりする。
ジェット機でも無理だろってシーンが多々。まぁ演出なんだろうけど。


何より、弾撃ちすぎ。
あと、置き撃ちじゃなくて、全部ターゲットがサイトに入ってから撃ってるってどうなのよ。


全体的に、飛行機は好きだったとしても、レシプロ機・ドッグファイトって物があまり好きじゃない人が作った印象。


あ、空とか地上は綺麗です。

削られた部分について

空戦シーンの占める割合が長く、そこは好印象なんだが、削られた部分が「なぜそこを削る」って部分だったりする。


たとえば、カンナミが「弾を撃った後は敵を見ない。撃った後は次の標的を探している」っていうところとか、見学客に対し「文字通り空を飛んでるような気分です」とジョークを言うシーンとか。
ミツヤ絡みのシーン(自分がキルドレじゃないと思いこんでしまう系)がなくなってたり。
飛行機の息継ぎの話がなくなったり、ササクラが画期的製品を開発していたりといった描写もない。


総じて、「原作ファンがニヤリとしてしまうような部分」がごっそり削られている感じ。
いやさ、キャラで小説読む人にとっては別に良いんだろうけれど、こういう「一部のファンをぐっと掴む要素」みたいな部分がごっそり削られているのは、その部分が好きな僕としては物凄いガッカリなわけで。

増えたシーンについて

対して映画独自のシーンに関しては、疑問が残る物が多い。
クサナギが戦争について語っちゃったり、ユダガワが復活して再生されるキルドレというのを示したり、その直後ミツヤが説明台詞を喋ったり*3と、全体的に「理由をつけて説明しようとする」ためのシーンが多い。


小説スカイクロラシリーズを読んだ人ならわかると思うが、「理由をつけて説明しようとする」「理解しようとする」ことは大人の行動として描かれ、キルドレである主人公達は「理解される」のを拒んでいる。
だが、映画スカイクロラにおいては、驚くほど饒舌にクサナギを初めとする登場人物が喋る。それも「戦う理由」「存在する理由」「生きる理由」というような物を。
そしてそれらは全て、押井テイストに溢れていて、押井ファンならやはりニヤリとする場面だったりするのだろうが、「理由がないことが美しい」とも言えるスカイクロラとは、相容れない。
少なくとも、僕が期待していたスカイクロラではなく、押井が監督と決まった時から危惧していたスカイクロラになっていた。

情景は森。でもテーマは押井

京極夏彦が、「森博嗣という器に押井守という素材が見事に盛り付けられている」とコメントしていたが、まさにその通りだと思った。
良い意味で使っているか、悪い意味で使っているかは別なんだろうが。


押井臭全回で行くなら、器は森じゃない方が良いと思うし、器を森にするなら中身も森にした方が良い。
なんというか、森も押井も「一歩間違ったらただの中二病」的作品を、絶妙のバランスで成立させるから好きだし面白いのだが、両者がブレンドされるとそのバランスが崩れてしまう。*4


なーんか黒歴史公開になるけど、むかーし書いた同人ゲームのシナリオのテーマ(繰り返される日常、日常ってそんなに悪いの? ってな話)と被ってたりして、うわぁぁぁぁぁって感じになりました。
いやまぁ、もちろんデキは全然違うけど、それくらいに中二っぽい話ってことで。

なにより

ティーチャの設定がもう、もろにラスボス扱いというか、全然原作と違った。
「原作と違っても、根底に流れるテーマは一緒」とかなら問題ないのだが、完全に別物である。
あと、クサナギを撃たない理由もちょっと……。
結局愛ですか。


カンナミもクサナギも、飛行機に乗って空を飛ぶことを「仕事」としか思ってないような感じ。
空スキスキ! ってのが、薄い。
それよりも「愛が大事」ってな話になってる。

良かった点

悪かった点ばかり言ってると、ネガティブ野郎と世間様に怒られてしまうので、良かった点。


トキノはイメージと違ったけど、良かった。
キャラクターや設定に関して言えば、正直トキノが一番の収穫かもしれない。


あと、上でも言ったけど、景色は綺麗です。


あとは……えーと、飛んでる散香を見られたのは良かったです。軌道は目茶苦茶だけど。
あと他には……テーマだのなんだの抜きにして、綺麗な映像だけ見るって目的なら結構良いと思います。


ただ、本当に疑問なんだが、面白いか……?
俺の場合、原作ファンなので、「原作読んで知ってるキャラや飛行機が動いてる」ってだけで、観に行く価値はあったと思うし、観て良かったと思っている。
文句タラタラでそうは見えないかもしれないけれど。
決して、「すげーつまらなかった」わけじゃなく、「期待しすぎたせいで、期待外れになってしまった。普通に観れば面白かったかも」って感じ。
その「期待外れだったポイント」を挙げているわけで、「金返せ!」って程はつまらなくなかったし、十分楽しめたと思う*5


でも、原作知らないでこれ観たら、面白いのだろうか。
世界観や設定は終盤明かされるだけだし、その明かし方も説明臭い台詞で、面白いとは言いがたい。
むしろ原作っぽく、戦争の理由だのキルドレとは何かといったことの説明を一切省いてしまった方が原作の雰囲気が保てたろうに。
でもそれでは押井臭さがなくなってしまう。


結局、原作ファンか押井ファンにしか受け入れられないのではないか*6という、そんな感じの映画でした。

*1:バカにしているわけでなく、純粋に疑問

*2:間違っても森はスカイクロラの中に「生きろ!」なんてメッセージは込めないと思う

*3:これは原作にもあるが、内容が随分違う

*4:要するにただの中二病その物になってしまう

*5:鑑賞後ここでこうしてウダウダ書いているのも含めて

*6:特に、原作を知らない押井ファンに最適