もし僕が皇太子と仲良くなったら

 僕が徳仁と初めて会ってから、5年が過ぎた。
 先日、ふとしたことから、徳仁の家に呼ばれた。相変わらずデカイし、ここに来ると小学校の遠足で北の丸公園に来た時、おやつのジュースにハチが入って泣いたことを思い出すから、少し嫌いだ。
「なるちん、突然何の用よ?」
「あー、まーくん。ちょっとね、また悩んでることあって、相談に乗って貰おうと思ってさ」
 僕らは、二人きりの時には、「なるちん」「まーくん」と呼び合う。
「なんだよ? また愛子が自分に似てブサイクな話? 顔はもうしょうがないって。確かに愛子はブサイクだけど、ある意味愛嬌があって可愛いじゃん」
 徳仁は、最近、娘が嫁に似ないで自分に似てしまったことについて、悩んでいた。
「いや、その話じゃないんだけどね……。なんていうか、言いづらいんだけど……」
「あ、わかった。雅子の話っしょ? 雅子またヒステリー起こしたの? まぁ大変だけど、雅子はナイーブだからさ、その分なるちんが気を使ってあげないと……」
 徳仁は、雅子のことでも悩んでいる。皇室育ちの徳仁は、女性のヒステリーや気まぐれに対処するのが上手くないらしい。
「その話でもなくてさ……」
 徳仁がこんなに言いづらそうにしているのは、初めて見た。確かに、プライベートでは、いつもテレビで見せる朗らかな笑顔ばかりというわけではないが、ここまで悩んでいるのは初めてだ。それで僕は、徳仁の抱えている悩みが相当な物だと気付いた。
「なるちん。俺とお前の仲じゃないか。なるちんの様子見て、相当な悩みだってのはわかったよ。気合い入れて聞くから、話してよ」
 佇まいを直し、徳仁の言葉を待つ。
「ありがとう、まーくん。実はね……なんていうか、そろそろ明仁――あ、オヤジね――亡くなりそうじゃん。でさ、葬儀とかそういうのはともかく、なんていうかさ……」
「なんだよなるちん。そこまで言ったなら、全部言っちゃえよ。どんなこと言われても驚かないからさ」
「うん……。なんていうかね、俺さ、天皇継ぐの、嫌になっちゃったんだよね……」
「まじで……?」
 しばし絶句する。まさか、あの徳仁が、天皇を継ぐのを嫌がるとは。幼少の頃から天皇になるために育てられ、オヤジさんの死後は即位することが決まっていたも同然だったのに。
「なるちん、それ、本気なんだな?」
 徳仁に確認する。今までそんな気配は微塵も見せなかったけれど、徳仁なりに一人で悩んでいたのかも知れない。
「冗談でこんなこと言えないさ。でも、無理だよなぁ。俺が継ぎたくないって言って、継がないで済むものじゃないし」
「いや、なるちん弟いるじゃん。弟に継いで貰うわけにはいかないの?」
 徳仁には、文仁という弟がいる。コイツは徳仁と違ってダンディなイケメンだ。
「なんかさ、文仁も継ぎたくないっぽいんだよね……」
「マジかぁ。てか、冷静に考えりゃそうだよなぁ。天皇とか、メチャメチャ面倒そうだもんなぁ」
「そうなんだよねぇ……。っていうか、皇族めっちゃ面倒だよ。最近PSPにハマってるんだけどさ、軽井沢の訪問時に移動中PSPやろうと思ったら、外でやるのは印象悪くなるからダメとか言われるし」
「あー、確かに自由ではないよなぁ」
「まーくんの家にだって行けないしさ。飲み屋とかも行けないし。俺もちとふなの笑笑で、みんなと一緒に飲みたいっちゅうねん」
 今まであまり考えなかったけれど、自分が徳仁の立場だったら、息苦しくて窮屈に感じるだろう。徳仁は、今までそんな生活に耐えてきたのだ。
「よし、わかった。俺がなるちんが天皇にならないで済むように、っていうか、なるちんが皇族やめられるように、努力してみるよ」
「いや、それじゃダメなんだよ」
「どうして? なるちん皇族やめたいんだろ? しがらみでやめられないってヤツ? 安心しろよ。皇族やめた後の就職とかはサポートするからさ」
「違うんだよ。俺が皇族やめたら、結局文仁が担ぎ上げられるだけだろ。で、文仁の次は、愛子や眞子、佳子、悠仁が担ぎ上げられて、俺みたいに苦労するだけだ」
 徳仁は、そこまで考えていたのか。徳仁一人が皇族をやめただけで、大問題になる。だが、仮にやめられたとしても、他の人間がいずれ天皇に担ぎ上げられ、新たな皇太子が生まれ、徳仁と同じような思いをする人間は生まれてくる。
「わかったよ、なるちん。なるちんはそこまで考えていたんだな。なら、俺は全力で天皇制をぶっ壊す」
「まーくん……」
 そう、徳仁と同じような境遇の人を作らないためには、天皇制その物をぶっ壊すしかないのだ。
「俺は、天皇制が日本に必要かどうかなんて知らない。天皇制は、日本にとってどんなメリットがあるのかもわからない。政治とかそういうことも、よくわからん。けど、生まれた時から選択の余地もなく、やりたくもないことをやらされて、自由も与えられない人間がいるなんて、そんなのは間違ってる。それだけはわかる。だから僕は、なるちんのため、いや、今後生まれてくる子達のためにも、天皇制をぶっ壊す!」
 今、僕は僕の中に熱い何かが湧き上がって来るのを感じていた。そう、ぶっ壊す。友が囚われている制度を。友がそれを望むなら。
 大切な友達の前では、伝統も、外交問題も、日本国民の尊厳も、そんな小難しい話は全部意味がない。
「でも、やっぱり無理だよ……」
 徳仁はここに来て弱気になったようだ。それはそうだろう。自分を縛ってきた天皇制からの脱出。きっとこれまでも、徳仁は何度も考えたに違いない。そしてその度、諦めて来たのだ。
 だが、今は違う。一人で悩んできたこれまでとは違う。今は僕がいる。そして僕は、徳仁がそう望むなら、全身全霊を、そう、この命さえも賭ける覚悟があった。
「やろう、なるちん。ダメかもしれない。上手く行かないかも知れない。けれど、僕らがそれをやろうとしたということは、決して無駄にはならないはずだよ。誰かがたとえ失敗したとして、第二第三の誰かが出てきて、その後に続いてくれるかも知れない。そのためにも、誰かが始めなくちゃ行けない。そして、今、僕らがまさに始めるべき人間なんだよ」
「……そう……かもしれないね。そうだ。俺はずっと考えていた。『俺はなぜ生まれた時から、他の子と違うんだ?』『俺はなぜ、みんなと一緒に駄菓子屋でうまい棒を食べられないんだ?』『俺はなぜ……なぜ?』と。もう、こんな思いをする子が生まれるべきじゃない」
 今、徳仁の目にも深い決意の炎が宿っていた。そう、やるしかない。僕らが失敗したとしても。
 この日から、僕と徳仁の、二人だけの戦争は始まった。
 それは、日本国民全てを敵に回しての、長く、そして勝ち目のない戦争だった。

まぁ上の文章はもちろん脳内妄想なんだけれど

なんつーか、自分自身に当てはめて考えた時、いくら一生衣食住が保証されていて、皇居に住めるっつても、皇族は嫌だなぁ、と。
自分自身がなるのが嫌な物を、天皇家に押し付けて、生まれた時から無理矢理やらせるって、どうよ?
嫌いな奴相手だったらそれもいいけど、俺は多少なりとも天ちゃんや皇太子のことが好きだから、やっぱ可哀相だなぁとしか感じない。
人間宣言しちゃったわけだし、人間に無理矢理ああいう生活させるのは、もう重大な人権蹂躙だよなぁ。


や、まぁ、もちろん政治的な問題とかで、天皇制がないとマズイのかも知れませんけど。
ただ、右寄りの考えで、天皇万歳って言っちゃうような人は、「自分がもしああいう生活を強いられたらどう思うか」ってのを、頭の片隅でもいいんで考えて欲しいなぁ、と思います。
俺は絶対嫌だ。
で、自分がされて嫌なことを人にしちゃダメって、小学校の時の内田先生が言っていたんで、天皇家みんなも、早く解放されるといいなぁと思います。


あー、こんなこと書いても連行されないで済む日本に生まれて、良かったー!*1