ふとした瞬間に

街を歩いていて、横断歩道で止まった時。
反対側で信号待ちをしている人を見て、「彼が横断歩道を渡り始めて、すれ違った時、後ろから本気で殴りかかれば撲殺できるんだろうな」と考える。
 
信号が青に変わる。
僕は歩き出す。
すれ違った瞬間振り返り、後ろから思い切り後頭部目掛けて両手を振り下ろす。
彼は頭部を押さえながら倒れる。
足を振り上げ、腹部目掛けて何度も何度も踏みおろす。踵で踏み付ける。
頭部をボールに見立てて蹴り上げる。爪先で蹴り上げる。
その内に彼は動かなくなる。僕は飽きて立ち去る。
彼がなんて名前で、どんな仕事をしていて、どんな映画が好きで、どんな音楽を聴くのかなんて知らない。知る必要がない。
僕は立ち去る。
もちろん僕がなんんて名前で、どんな仕事をしているかなんてことも、彼には関係ない。
重要なのは、僕はただ誰かを殺してみたくて、たまたまそこにこの人がいたという、それだけの事。
 
信号が青に変わる。
僕は、信号が変わるまでにしていた妄想を振り払い、歩き出す。
彼は無事信号を渡り終え、歩いていく。
 
もしかしたら、僕の気分次第で彼には全く違う結末があったかもしれないことを、彼は知らない。