グリーン車

実家から、東京の家に戻るとき、常磐線グリーン車に乗ってみた。特急列車ではなく、在来線にグリーン車が付いたタイプの物である。
勝田でグリーン券を購入し、二階建ての車両の一階席、一番前に座った。
車内はガラガラで、「グリーン車は全席自由席の為、満席の場合〜」という注意書きは、正月明けの寂しさと相俟って、一種の哀愁を感じさせてくれた。

グリーン車の一階席は通常の車両よりも低くなっていて、席に座って窓の外を眺めると、視線の高さはホームから三十センチほどでしかない。
普段見ることのない景色と、人気の無い車両、そして同じく人気の無い夜のホーム。銀河鉄道ってこんな感じなのかな、などと考えていると、発車のアナウンスが流れ、ドアが閉まり、電車が走り出した。グリーン車がついていても、車内アナウンスは通常の列車と変わらないようだった。
リクライニングを倒し、上着を脱ぎ、イヤホンを付けてから文庫本を開く。グリーン車は、自分だけを乗せて、窓に夜の街を映して走る。
悪くないな、と思った。
グリーン券の価格も特急に乗るよりは手軽だし、それでいてシートは特急のそれと恐らく大差はない。
特急と比べ、上野着が時間にして一時間ほど違うが、誰にも邪魔されずゆっくり本を読みながら、一つ一つの駅に停車するたび窓の外を眺める、こんな旅も乙な物かもしれない。

何より、車両の作りが特急車両と同じで、駅に停車してドアが開いても、座席の方まで外の空気が入って来ないのが素晴らしい。
在来線で帰省するたび、シートの寝心地の悪さと、停車するたびに開くドアから吹き込んで来る寒気には、泣かされていたものだ。それが嫌で、冬場などは急いでいなくとも特急券を仕方なしに購入していた。


果たして、いつまでこのグリーン車が残っているのかは不安だが、次に帰省する際は、最初からグリーン車を利用してみようと思う。
時間に拘らないなら、お奨めである。