ノック

社会生活を営む時に、感情は邪魔になる事が多い。
それは僕を狂わせ、夜な夜な胸を掻き毟るような思いを持ってくる。
だから鍵をした。
喜びも、怒りも、哀しみも、小屋の中に仕舞い込み、扉に鍵をかけて閉じ込めた。
時折扉の向こう側に感じられるそれらの感情で気持ちが揺らぐ程度でいい。
残されたのは楽しさだけ。いつも笑みを絶やさず作り笑いを貼り付けながら生きていけば、この世は多少なりとも生き易くなる。
ここ最近、その扉をノックされることが多い。
元々自分の感情すら持て余すような奴が作った小屋だ。
狼の息で飛ばされるような、そんな小屋だ。
扉はすぐに破れ、小屋はすぐに吹き飛んでしまう。
溢れ出した感情は留まる事を知らず、こうしている間にも僕の中で膨れ上がっていく。
喜びが、怒りが、悲しみが溢れてくる。
それらは僕の気持ちを動かし、僕自身をも動かそうとする。
切り捨てたはずの者に、確かに閉じ込めたはずの物に、今苦しめられている。

それはきっと、それらと向き合わず逃げ出す事を選択した僕の罪なのだろう。