意思疎通

人と話をする度に、意思を正確に伝える事はなんて困難なことなのだろうと驚愕する。
人それぞれ、色々な事を考えているのだと驚愕する。
同じ国で生まれ、同じ言葉を使い、同じような生活を送っているはずなのに、それなのに、気持ち一つ正確には伝えられない。
言葉を尽くせば尽くすほど、伝えられない。
当たり前の事だけど、みんな自分と同じように色々な事を考え、悩み、想像し、行動しているのだと実感する。
だから、人と会うと悲しくなる。一度に大勢の人と会うと、もっと悲しくなる。
人は誰かに完全に理解してもらう事なんて無いのかもしれない。
それとも僕だけか? 僕だけが理解されずこの閉じた小部屋の中で死んでいくのか?
僕は相手の気持ちを完全に理解できる事なんて無いのかもしれない。
僕だけか? 僕だけが共感能力が過度に欠如しているだけなのか?

人と会うたびに、絶望する。
理解できるよう伝えられない自分に。
理解してくれない相手に。
理解できない自分に。
そして何よりも、頭の中にあるこの感情を直接伝える術を持たない人間という酷く不便な生き物に。
絶望して、人と会うことを拒絶した事もあった。

だけど、それでも今、人と生きたいと切に願う。
理解させようとする行為が、理解しようとする努力が大事なんだと信じて。
本当に信じているのか? ただ希望にすがっているだけではないのか?
その問いに答えることは、僕には出来ない。
ただ、この微かな希望すら失ってしまう時。それは僕にとって災厄の匣が完全に解き放たれた事と等しい。